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東京高等裁判所 昭和25年(行ナ)20号 判決

原告 大阪綜合食品株式会社 外二五名

訴訟代理人 長野潔 永沢信義

被告 公正取引委員会

訴訟代理人 入江一郎 外三名

主文

被告が原告らに対する昭和二十四年(判)第十号事件について昭和二十五年九月二十九日にした審決のうち、原告大阪綜合食品株式会社を除くその余の原告らに対する部分を取り消す。

前項において取り消した部分を除くその余の部分につき、原告大阪綜合食品株式会社に対して、本件違反行為を排除するに適合する措置を命ずるように審決を変更させるため、事件を被告公正取引委員会に差し戻す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一原告らの請求の趣旨及び請求の原因並びに被告の答弁に対する反論。

原告ら代理人は、原告らに対する昭和二十四年(判)第十号事件につき、被告が昭和二十五年九月二十九日にした審決を取り消す旨の判決を求め、請求の原因及び被告の答弁に対する反論として次のように述べた。

一、原告大阪綜合食品株式会社(以下原告会社という)は、資本金十九万円の株式会社で、食料品の販売並びにこれに附随する業務(但し許可を要するものを除く)を営むことを目的とし、昭和二十年三月三十一日以来大阪府下十五ケ所の営業所において、砂糖卸売業務に従事してきたものであり、その余の原告らは、いずれも原告会社の株主である。

二、被告は、昭和二十四年八月二十二日、原告ら二十六名外一名(死亡)を被審人とし、事業者団体法違反の疑いありとして、審判開始決定をし、審判手続を経て、昭和二十五年九月二十九日別紙審決書写のとおり審決した。

三、原告らは、この審決に不服であつて、次の諸点について争うものである。

(一)原告会社は事業者団体ではない。

被告は審決において、原告会社を事業者団体法にいう事業者団体と認定したが、審決書の「事実及び証拠」の部分に記載された事実は、個々の事実としては原告らもこれを認めるところであるけれども、審決がこれらの各事実に有機的連関を持たせただけでなく、必要な事実をことさらに省略した点は承服できない。これらの事実から直ちに、審決の認定したような、原告会社が事業者団体であるという結論を引き出すことはできない。この意味で審決は、審決の基礎となつた事実を立証する実質的証拠を欠くものであり、また一面事業者団体法第二条の事業者団体の解釈を誤り、同法の適用につき独断に過ぎ又は不当であるというべきである。これを分説すれば次のとおりである。

(1) 原告会社は単純は一株式会社であつて、事業者団体ではない。

原告会社は、(イ)食料品の販売及びこれに附随する業務(但し許可を要するものを除く)を目的とする、単純な、一株式会社に過ぎず、砂糖卸売業を営むことを唯一の目的として企画されたものではなく、たまたま発足にあたり手近かの砂糖卸売及び罐詰類の卸売部門から、その事業を始めたものに過ぎない。(ロ)その総株主中の大部分が砂糖小売業者であり、その他役員らの構成が審決のとおりであつても、株主である砂糖小売業者が、その投資によつて利益を挙げるために他の事業を目的とする会社を設立経営することは、なんら法の禁止するところではない。また、(ハ)原告会社の十五営業所が、大阪府下の砂糖小売業者の団体である大阪府砂糖商業協同組合の支部長の店舗と同じで、その各営業所主任が右組合支部長であり、原告会社の本店が組合事務所内に置かれ、会社事務員は組合事務員が兼ねていることは、すべて会社設立直後 さし当り、経営上やむを得ずとつた手段であつて、これをもつて事業者団体であることの証拠とするのは失当である。

(2) 原告会社の砂糖卸売部門は、株主たる砂糖小売業者の利益のために設けたものではない。

(イ)原告会社は、たまたま設立当時、砂糖の配給が行われることになつたので、砂糖卸売部門を設け、これに関係することとなつたに過ぎない。(ロ)砂糖は、戦争中非常に不足していたところ、終戦後連合軍の好意によりはじめて、その放出物資として、一般にある程度配給されるに至つたのであつて、その迅速、公平且つ円満な配給は一般消費者の強い要望であると共に、政府もこれについて大きな努力を傾けていたのであり、この間にあつて最も心をくだいたのは、消費者に直面する砂糖小売業者である。それは、消費者の不満は直接小売業者に向けられるからである。原告ら(原告会社を除く)も、砂糖小売業者としてこのような配給についての公共的責任感から苦心したのであつて、自分ら小売業者の利益のごときは考えていなかつたのである。(ハ)もともと砂糖の販売は、利潤少く、卸・小売共に大企業的経営に適しないものであつて、このことは、自由経済時代でも、国内最高の砂糖消費地といわれた大阪府において、大阪市以外には、僅かに数店の兼業卸売業者があつたに過ぎないことからも推測される。限度のある放出砂糖の配給について、大企業的経営の成り立たぬことはいうまでもない。ことに、(ニ)当時砂糖卸売価格は卸商の店先渡しであつたこと、大阪市を除いた大阪府下十四市七郡の人口は約百八十万で、うち卸売業者のなかつた地区は、七市五郡に上つたこと、大阪市の人口は約百五十万で、その二十二行政区のうち、従前の砂糖卸売業者で、営業可能と認められたものが存在した区は僅かに八区で、他の十四区は卸売業者のいない地区であつたこと、などの特別の事情があつたので、昭和二十三年三月大阪府における砂糖卸売業者の選定登録に際し、当時すでに成立していた原告会社が、前記のごとき砂糖配給に奉仕するため、その登録を受けたものである。すなわち原告会社の砂糖卸売部門は、公団から消費者への配給ルートにおける一環として存在するに過ぎず、すべては大阪府における砂糖配給という公共的事業に協力するため、言いかえれば、公共の利益ないし消費者の利益のためにするものであつて、決して株主たる砂糖小売業者の利益を目的とするものではない。

(3) 原告会社の砂糖卸売部門は、株主である砂糖小売業者の事業者としての共通の利益増進の目的を持たない。

審決は、株主総数五百六十二名のうち、その九二パーセントの五百十六名が砂糖小売業者である原告会社が、砂糖の卸売業を営んで、株主たる砂糖小売業者と取引をしているという事実から、原告会社は、砂糖小売業者の事業者としての共通の利益の増進を、その目的に含む事業者の結合体であると認めているが、本件において、何が事業者としての共通の利益であるかは、一向に明白でない。(イ)砂糖は、配給統制が行われているのであるから、小売業者は、卸売業者がだれであろうと結果は同じであり、原告会社が卸売業者であることによつては、株主たる小売業者に格別の利益はなく、ことに原告会社は株主でない小売業者との取引を拒否することはできないのである。(ロ)また価格の点についても、砂糖は統制によつて価格が一定しているから、小売業者が原告会社から、特別廉価に仕入れることは、法律上ゆるされず、この点においても共通の利益は存しない。(ハ)ただ、砂糖の卸売業者も一定のマージンを取得するわけであるから、原告会社も決算の結果利益を挙げ得ること、従つて砂糖卸売によつて得た利益を、株主である砂糖小売業者に配当することはあり得るが、これは投資に対する利益であつて、事業者団体法とは無関係である。しかも、(ニ)砂糖の卸と小売とは、本来全然異る業態であつて、沿革的にも別個の取引分野を持つ異種の事業であるから、この取引分野を異にする卸の経営は、小売分野における共通の利益とは無関係である。ことに、(ホ)原告会社が砂糖卸売の登録をしたのは、大阪府下五十地区中の十五地区で、この地区には他に卸売の登録を受けた者がなく、原告会社が砂糖小売業者と取引したことは間違いないけれども、その取引の相手方たる小売業者のうち、株主である小売業者の数は、審決において確定されていない。本件審判開始決定書では約百五十五名であるとしているが、そうだとすれば、それは小売業者たる株主の三〇パーセントに過ぎない。この状態で何故に、原告会社の目的に、砂糖小売業者としての共通の利益の増進を含むと認められるのか。原告会社と取引をしていない残りの七〇パーセントの株主である小売業者は、いかなる利益を得ていることになるのか。これらの株主は、何故に審決のいうように、その持株を手離さなければならないのか。審決は、論理に飛躍があり、その結論は独断的である。

(二)原告会社は仮に事業者団体であるとしても、排除措置の必要はない。

事業者団体法の目的は、私的独占禁止法の補充立法として、事業者の結合関係が、私的独占禁止法の目的とする、自由競争の理想に反する効果を生ずることを、あらかじめ防止するにあるから、自由競争を行う余地の少い砂糖配給関係において、この法律を適用していわゆる違反行為を排除する必要はない。(イ)原告会社が砂糖配給関係でつとめている役割は、大阪府下砂糖消費者の利益のために、重大な意義があり、原告会社が介在することによつて、砂糖の配給が円滑に行われているのである。(ロ)もともと、統制による配給関係を、販売・取引・卸・小売等自由取引特有の言葉で表現することが誤りであつて、それは自由競争におけるものとは、およそ異なる概念である。公的に統制された配給関係は、本質的に独占的なものであるから、私的独占禁止法とは本質的に親しまない。砂糖についても、配給統制が続く限り、自由競争の推進を主たる目的とする、私的独占禁止法ないし事業者団体法の適用外の事柄である。従つて形式的にこれらの法規にふれるところがあつても、それは放任されて然るべきものである。(ハ)しかのみならず、法はいかなる場合にも、公共の福祉に反しない限りは、発動すべきものではない。事業者団体法には、私的独占禁止法第二条第三項第四項の「公共の利益に反して」とか、第四条第二項の「問題とする程度に至らぬ」というような立言がないけれども、かかる立言の有無にはかかわりない。原告会社の砂糖配給関係において営む行為は、なんら公益に反せず、公共の福祉に害あるものでないから、仮に形式的には事業者団体法に違反するとしても、不問に付せらるべきものである。

(三)原告会社以外の原告らに対し審判を開始し審決をしたのは違法である。

(イ)事業者団体法第八条の審判については、同法第九条の規定で、私的独占禁止法の規定が準用されているが、その第四十九条ないし第五十一条によれば、審判における当事者は、当該事業者だけであつて、第三者に対しては 審判手続をすることができないものであるところ、事業者団体法は、右の準用にあたつて、特に「事業者」とあるのを「事業者団体」と読み替えているのであるから、事業者団体法の審判手続において当事者となる者は、当該事業者団体だけであることは、疑う余地がない。(ロ)もし第三者を当事者としようとするならば、私的独占禁止法第五十九条の準用によつて、これを参加させることができるに過ぎない。いわゆる事業者団体が、法人又は人格なき社団である場合には、これのみが当事者たるべきものであつて、その構成事業者を事業者団体と同一に扱うべき法律上の根拠は存しない。本件の事業者団体は、原告会社のみであつて、その余の原告らは、原告会社の株主であり、審決認定のような会社の役職員を兼ねている者ではあるが、要するに第三者である。この第三者たる会社以外の原告らに対して、なんら法律上の根拠なくして審判をしたことが違法であることは、おのずから明らかである。この点について、審決がその末段に説示した理論は、法律解釈の法則を無視し、事業者団体法の規定を不当に拡張して適用し、結局、審決自体が同法に違反しているか、少くともその適用につき独断に過ぎるものといわなければならない。いかに私的独占禁止法ないし事業者団体法が特殊の性格を有するとしても、法自体の文言を無視することはできないはずである。(ハ)審決のいうように、事業者団体法第二条の趣旨が、結合せる事業者をとらえてこれを事業者団体としているのであれば、本件の事業者団体は、原告会社ではなく、その株主中の五百十六名ということになるであろう。しかし、これは甚だ奇妙な結論である。法人でもなく、また人格なき社団ともみられない事業者の集合については、それが事業者団体とみられる以上はすべての構成事業者すなわち事業者団体と考えなければならず、またこれを被審人としなければならないことは当然であろうが、かような事態が起り得るとは思えない。けだし、結合体という以上は、社会的に実在する有機的集団であつて、単なる事業者の集合ではないからである。仮に審決のように解しても、その一部分の構成事業者のみでは、事業者団体(全部)そのものを表わしていないことになる。(ニ)審決のいうように、「事業者の結合の態様、その強弱等は問わないものであり、更に同法の全趣旨からみて」、何故に事業者の結合体そのものを、規律の対象としているものと解釈することができないのか、理解することが困難である。審決は、元来総ての構成員は事業者団体の行為につき責任があると解しているのであろうか。しかし責任があるから、当然に当事者にするというのは、立法論としてはとにかく、解釈論としては間違いであろう。問題は責任があるかどうかではなく、責任がある場合に、現行法上それを問う手段があるかないかである。審決の理論には、大きな論理の飛躍がある。(ホ)また、当事者の範囲は「公正取引委員会が、具体的事件毎に、その者が違反事実に関与した程度、又はその者の当該団体における地位、及びその違反事実に対する排除措置等を考慮して、適当と認める処に従つて決定することができる」との審決の見解は、不合理である。審決のいうように、構成事業者を当事者とすることができるとしても、それは事業者であるからであろう。そして構成事業者である以上、その全部を規律の対象としなければならないはずである。けだし、事業者団体の実体は、審決のいうところによれば「結合せる事業者」であるからである。もし審決のように、違反事実に関与した程度等が標準とされるなら、事業者でない第三者(例えば使用人)も、問題としなければなるまい。かような拡張解釈はゆるされないと信ずる。

(四)審決主文において原告らに命じた排除措置は違法である。

審決が、その主文において原告らに命じた排除措置は、それ自体大きな矛盾を包蔵し、あいまいであるのみでなく違法である。

すなわち、

(1) 審決の主文第二項及び第三項の関係は、不能を原告会社及び原告橋真乃夫に強い、その効果がない場合に、原告会社の営業を停止することを命じたものである。(イ)原告会社も原告橋も、他の株主に、その株式(財産権)を他に譲渡することを強制することはできないから、勧告する以外に途がないはずである。他の株主が勧告に応ずればとにかく、勧告を無視した場合には、原告会社は営業の継続が不可能になるのであつて、かかる命令は妥当でないのみでなく、他人の不行為につき責任を負わすような措置は、むしろ違法である。(ロ)また当事者でない株主に対しては、直接にも間接にも、排除措置を命じ得るわけがない。事業者団体に対する措置の、当然の反射的不利益を受けることは、やむを得ないところであるが、審決によると、事業者団体に対し、当事者でない株主の所有株式を処分させるよう適当な措置を執ることを命じ、これができなければ営業停止の不利益を受けさせることにしている。これは一面第三者に対する、間接の強要である。憲法第二十九条は「財産権はこれを侵してはならない」と規定している。審決は、合法に名をかり、第三者の財産権を侵害するものというの外なく、当然に無効である。これが当然無効であつても、審決が形式的に存する以上、これが取消を求め得るものといわなければならない。

(2) 審決主文第六項は不当に抽象化されて居り、文言自体からすれば、一切の事業者の結合の組織、又は参加を禁止するもので、憲法第二十一条に反し、当然に無効である。またもし、法律の条文と同趣旨の措置を命じたものとすれば、かかる抽象的な措置は、違反行為の排除ないし再発防止の措置としては、必要な限度を越えるものであり、憲法違反である。

(五)予備的主張

仮に以上(一)ないし(四)の主張がすべて理由がないとすれば、原告らは次の事実を予備的に主張する。

(1) (イ)本件審決後昭和二十五年十一月下旬大阪府における砂糖卸売業者の登録替が行われ、同年十二月五日登録合格者の発表があつたが、今回の登録替については、原告会社は立候補を断念し、従つて登録を受けていない。(ロ)従来の原告会社の営業地域で、あらたに大阪府砂糖商業協同組合及び原告山本浅吉外十四名らが、原告会社と別れて、個人として立候補し、登録に合格して営業を開始した。(ハ)それ以来、原告会社は、砂糖卸売部門を廃止したものであつて、被告が共通の利益としてあげている営業部門は、なくなつたのであるから、原告会社は少くとも現在では、事業者団体に該当しない。

(2) (イ)審決は一種の行政処分であり、それに対す不服の訴は、その行政処分の取消を求める訴であると解するのが相当であつて、行政処分は、処分当時適法有効であつても、その後の事情により妥当を欠く場合もあり、当然に無効となる場合もあり得る。不服の訴において、これらの事情を主張することができないものと解する実質上の理由はなく、むしろこれを援用することを許す方が行政上、訴訟上の経済に合致するのはもちろん、当事者の利益を保護する所以でもある。(ロ)行政訴訟(本件も行政訴訟である)において、訴訟提起後、法規の改正により、現在の法規上もはや違法でなくなつたとき、又は事情の変更により訴の目的の消滅するに至つたとき、行政処分当時を標準として判断すべきか、判決当時におけるそれを標準として判断すべきか、有力な学者は後者を支持している。本件においてもこの説に従うことを相当とする。(ハ)原告会社は砂糖卸売を営んでいたからこそ、審決のような措置があつたのである。これを廃止した現在は、審決の基礎が失われ、審決は将来に向つて当然に無効となるものと解する。行政処分が当然無効となつたときでも、形式的な行政処分は依然存在するが故に、一応執行力を有する。従つてこれが取消を求める法律上の利益があることは、いうをまたない。

四、被告の答弁に対する反論。

(一)(1)被告が、原告会社につき、設立当初の目的の主たるものが、砂糖卸売業者として登録するにあつたと主張するところは、なんら実質的証拠に基かないものであつて、失当である。

(2)被告が、本件において、小売業者たる株主の共同利益は、卸小売の兼業を同一店舗で行う者と、小売業のみを行う者との利潤差であると主張するところは、なんら証拠がなく、これが共通の利益であるというのは独断である。

(3)被告が、原告会社との関係において、株主である小売業者が、有形無形の利益を受けると主張する点も、独断であつて、実質的証拠はない。卸関係のニュースの速聞というが、そういうことは、配給統制下にあつては、小売業者として何の役にも立たない。速聞しても、統制に服することを免れるわけにはいかない。取引上通常生ずる目減り問題の解決というところも全然理解することができない。更にサービス上その他の便宜は全然なく、原告会社は、小売業者の投票による登録が容易であるため、そのサービスは、一般の卸売業者よりも悪かつたのであつて、むしろ、小売業者である原告らは、共通の不利益を甘受しただけである。

(二)配給統制と競争との関係についての被告の見解には反対である。登録制度は、価格以外の自由競争を促進するのではなく、むしろ卸売業者の乱立が、小売業者の利益を害するという、不当な結果を生ずることを防止するのである。

(三)(1)被告は、原告らが、審決の排除措置は、不能を強いるものであるから違法であると主張したのに対し、原告会社が事業者団体法にいう事業者団体で、しかも同法に違反しているから、砂糖卸売業を禁止することもできるのであるというけれども、禁止ができるから、それ以下の命令なら不合理な命令でもよい、という結論にはならない。審決で禁止しないのは、禁止することが妥当でないからであろう。禁止に至らない命令でも、当事者の意思で実現することができるものでなければならないことはもちろんである。不能を強いておいて、実現しないから禁止と同じになつても仕方がないというのは、責任転嫁である。

(2)審決主文第六項は、解釈によつて内容を限定されるべきものではない。主文はそれ自体で内容が判明するものでなければならない。被告の意図しないことが表示されているのであれば、それだけで審決は失当であると信ずる。

第二被告の答弁

被告代理人は、原告らの請求を棄却する、訴訟費用は原告らの負担とするとの判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、原告会社は事業者団体ではないとの主張について。

原告らは、原告会社は単純な一株式会社であつて、その砂糖卸売部門は、株主である砂糖小売業者の利益のために設けたものではなく、且つ共通利益の増進を目的に含むものではないと主張するけれども、その主張は失当である。

(一)昭和二十三年三月、砂糖需給調整規則による砂糖業者の登録制実施に関し、大阪府においては、同年二月二十七日附告示第九十三号を以て、卸売業者登録に関する細目を定め、申請期限は同年三月八日と定めたのであるが、原告会社は、砂糖小売業者の組合である大阪府砂糖商業協同組合の役員六名が発起人となり、一定地区に卸商のないことは、砂糖配給の円滑を期し得られないので、卸商の候補に立つことをも目論み、同年二月二十日株主五十三名(大部分は前記組合員である)をもつて創立総会を開催し、二月二十八日その設立登記を完了したものであつて、後に株式が分散され、株主五百六十二名となり、この中砂糖小売業者五百十六名となつたが、設立以来同年九月までの営業収益は、すべて砂糖卸売業による収益であつて、原告会社の役員十四名も前記小売業者の組合役員全部であり、原告会社の十五営業所の営業主任は、小売業者の組合の各支部長がこれを兼ね、同時に小売商を営んでいるところであり、同社本店は小売業者の組合の事務所内に置かれ、事務員も兼任して、もつて株主である砂糖小売業者と取引を行つていたものである。

(二)以上のような事実は、原告会社設立当初の目的の主たるものが、砂糖卸売業者として登録することにあつて、このために小売業者の組合幹部が主導力となり、砂糖小売業者相互を結合せしめ、各人は会社の株主という形において、参加結合しているのであつて、言いかえれば、会社という形を通じて、砂糖小売業者が卸売業を営んでいるものであり、株主たる資格を有する五百十六名の砂糖小売業者らが、共同利益の追求を卸売業務を営むことにより行つているものと見るべきである。かかる形態の下に経営することによつて生ずる利益は、卸小売の兼業を同一店舗で行う者と、小売業のみを行う者との利潤差である。

(三)更に原告会社が、株主の大部分である砂糖小売業者と、前述のような密接不可分な関係を有するものである以上、これらの株主は卸関係のニュースの速聞、取引上通常生ずる目減り問題の解決、サービス向上その他の便宜の寄与の下に、安心して取引を行うことができるのである。以上の如き理由の下に、株主である砂糖小売業者は、原告会社との関係において、有形無形の利益を受けるものである。このことは審決においては、特に表示するところはないけれども、審決認定の事実から当然に引き出されるところである。

二、原告会社が事業者団体であるとしても、排除措置は必要でないとの主張について。

原告会社がすでに、事業者団体法にいう事業者団体に該当し、同法によつて禁止されている営業行為を行つているものである以上、法秩序の維持のために、違反行為の排除に必要な措置をとることは当然のことである。原告らは、本件のような統制された配給関係は、本質的に独占的なものであるから、本来私的独占禁止法と親しまないものであつて、同法ないし事業者団体法の適用外の事柄であると主張するが、競争は物の価格についてのみ行われるものではなく、配給統制の下においても、価格の面以外における競争は、行われ得るものであつて、砂糖需給調整規則による砂糖業者の登録制度の如きは、正に価格面以外の砂糖業者間の自由な競争を促進し、もつて消費者の利益を図ろうとする目的を有するものである。私的独占禁止法及び事業者団体法は、あらゆる面における自由競争の促進を目的とし、現に存在する競争の障害物を排除し、又は競争を妨げるおそれのある行為を禁止するためのものであるから、統制経済下にある事業者に対しても、適用されるべきものであることは、もちろんであつて、原告らの主張は理由がない。

三、原告会社以外の原告らに対して、審判を開始し審決したのは、違法であるとの主張について。

この点に関する被告の見解は、審決書の法令の適用において示してあるとおりであつて、なお理論上は、原告会社の株主はすべて、これを被審人として審判し得るものであるが、本件の如くその一部の株主のみを対象として審判するのも違法ではない。

四、審決主文の排除措置が違法であるとの主張について。

(一)主文第三項に対する主張について。

被告は、審決において、原告会社が事業者団体法にいう事業者団体であり、従つて同会社が砂糖卸売業を営むことは、同法第五条第一項第十三号に違反するものと認めたものであるから、その排除措置として、同会社の砂糖卸売業を禁止することもできたのである。しかし被告は、本件の排除措置としては、同会社に、その事業者団体的性格をとり去らせれば十分であるとして、原告らに対し、審決書主文第一項ないし第三項のような措置を命じたのである。しかして右第三項後半の趣旨は、株式の処分に関する原告らの行為が、所定期間内に完了することを確保するためである。原告会社が事業者団体たる性格を有する以上、営業を営み得ないことは当然であり、本件排除措置としては、もともと、営業禁止をも命じ得るのであるから、原告らの株式の処分に関する行為が、所定期間内に終了しなかつた場合、その期間満了後株式処分の完了するまで、同会社の営業を禁止することはなんな不当でもまた違法でもない。

(二)主文第六項に対する主張について。

審決書主文第六項は、原告らが、将来、本件原告会社のような事業者団体を組織したり、それに参加したりしてはならないという趣旨であつて、一切の事業者の結合を禁止しているものではない。従つて、主文の「営業若しくは営業施設の経営をなすことを目的とする事業者の結合」とは、事業者団体法にいう事業者団体で、しかも、営業若しくは営業施設の経営をなすことを目的とするものを意味するのであつて、原告らが将来一切の結合体を組織したり、それに参加したりしてはならないというのでないことはもちろん、営業若しくは営業施設の経営を目的とする結合体であつても、協同組合法に基く協同組合を組織するようなことまでも禁止するものではない。要するに、事業者団体法にいう事業者団体に禁止されている行為を目的とする事業者団体を組織したり、それに参加したりしてはならないという意味である。

五、予備的主張について。

(一)原告ら主張の事実は、すべて本件審決後の新しい事実であるが、審決に対する不服の訴訟においては、その判断の資料となる事実は、すべて審決当時を標準として決せられるべきであり、審決後の事実は主張することが許されないものである。すなわち、審決の取消又は変更を求める訴においては、公正取引委員会のした審決そのものが争の対象となるのであり、この審決は、審決の時までの事実を基礎とした裁断であり、裁判所は、訴の提起により、この審決についての事後審査を行うのであつて、その結果、私的独占禁止法第八十二条第一項の規定に従い、(イ)審決の基礎となつた事実を立証する実質的証拠がない場合とか、(ロ)審決が憲法その他の法令に違反する場合に、はじめてこれを取り消す判決をすることができるのである。右の(イ)の場合においては、その基準となる事実は「審決の基礎となつた事実」であるから、審決当時存在した事実について、実質的証拠のない場合をいうのであり、審決後に生じた事実のことではない。従つて、審決後に生じた事実について、実質的証拠の有無を論じたり、あたらしい証拠を申し出たりすることは許さるべきものではない。けだし私的独占禁止法第八十一条第一項において、あたらしい証拠の申出をすることができる場合として、その第一号に「公正取引委員会が正当な理由がなくて、当該証拠を採用しなかつた場合」と規定しているのは、すでに公正取引委員会の審判において、取調を請求され、あるいは顕出された証拠の採否に関する場合であることは、きわめて明白である。また、その第二号に「公正取引委員会の審判に際して当該証拠を提出することができず、且つこれを提出できなかつたことについて過失がなかつた場合」と規定しているのも、公正取引委員会の審判の当時すでに存在したが、審判には提出されなかつた証拠についてのみ、問題となり得るのであつて、審決後に生じた事実についての証拠は、全く問題外のものであることは、それが提出できなかつたことについて過失の有無を論ずる余地がないことから見ても明白である。なおまた、もし原告ら主張のように、審決後のあたらしい事実の主張が許されるとするならば、事業者団体は審決を受けた後、その取消又は変更の訴を提起して事件を訴訟に持込んだ後になつて、一時的に法の適用を免れる手段を講じて審決取消の判決を受け、然る後おもむろに、再び違法な状態に復帰することができるのであつて、これに対しあらためて審判開始決定をし、審決をしたとしても、前同様の経過をとるおそれがあり、法の目的は永久に達せられないことになるであろう。このような不合理な結果は法の認めるところでないことは明らかである。従つて原告らのあたらしい事実の主張は、本来許されないものである。

(二)仮に原告ら主張のようなあたらしい事実の主張が許されるとしても、原告会社が昭和二十五年十二月五日大阪府における砂糖卸売業者の登録替にあたり、登録を受けず、現在砂糖卸売業を営んでいないことは認めるが、更にあらたに登録を受ければ、再びこれを営み得るものであつて、一時的な休業状態ともいうべく、砂糖卸売部門を全く廃止したものとはいえないから、現在砂糖卸売業を営んでいないとの一事によつて、本件審決は取り消さるべきものではない。

第三証拠関係。

一、引用証拠

(一)原告ら代理人は、昭和二十四年十一月四日附被審人ら代理人弁護士長野潔同永沢信義名義の公正取引委員会宛上申書の記載、審判手続における被審人ら代理人長野潔の陳述、参考人高津久男、宮原進、出原保正、石田庄吉、被審人大阪綜合食品株式会社代表者橋真乃夫の各陳述を引用し、

(二)被告代理人は審判手続における参考人高津久男、石田庄吉の各陳述を引用した。

二、あたらしい証拠の申出

原告ら代理人は、あたらしい証拠の申出として、甲第一号証(大阪府砂糖卸協同組合理事長柴田長太郎名義の証明書)及び参考人出原保正、同原告会社代表者岩崎嘉一の各取調を求め、その申出の理由として、原告らの予備的主張の事実は、すべて審決後のあたらしい事実であつて、従つて審判に際してこれを提出することができず、且つそのことにつき過失がなかつたことは明白であると述べ、

被告代理人は、あたらしい証拠の申出はその理由がないから、直ちに却下されるべきものであると述べた。

理由

第一原告会社は事業者団体ではないとの主張について。

一、原告会社が大阪府下の砂糖小売業者の団体である大阪府砂糖商業協同組合の理事長橋真乃夫外組合員六名が発起人となり、食糧品の販売並にこれに附随する業務を営業目的として、昭和二十三年二月二十八日設立されたものであつて、設立当時の株主は五十三名で、大部分は砂糖小売業者であつたが、その後株式が分散されて、株主数五百六十一名、うち砂糖小売業者五百十六名すなわち総株主の九二パーセントとなつたものであり、原告会社の全営業所(十五ケ所)は、右協同組合の各支部長の店舗を利用し、各営業所の主任は、協同組合の各支部長が兼ねていること、大阪府においては、戦時中砂糖卸商の廃業によつて卸商のない地域があつたが、昭和二十三年砂糖需給調整規則による砂糖業者の登録制の実施にあたり、卸売業者から小売業者への砂糖の配給方法は、卸売業者の店先渡であつたので、一定地域に卸商のないことは、砂糖配給の円滑を妨げることとなり、且つ他に卸商として立候補するものがなかつたので、配給の円滑化をはかるため、原告会社が卸商の候補に立ち、前記十五営業所において卸商の登録を得て、砂糖卸売部門を設けるに至つたもので、それ以来株主である砂糖小売業者と取引をしていたものであることは、被告が審決において認定したところであり、これらの事実に関する限り、原告らも本訴においてこれを認めるところである。

審決は、これらの事実から、原告会社が事業者団体法にいう事業者団体であり、原告会社が砂糖卸売業を営みその株主である砂糖小売業者と取引することが、小売業者の事業者としての共通の利益の増進に該当するものとしたものであることは、審決自体に徴しておのずから明らかである。

二、事業者団体法にいう事業者団体とは、同法第二条に規定するように、事業者としての共通の利益を増進することを目的に含む、二以上の事業者の結合体(又はその連合体)をいうものであつて、その結合の形態、設立の根拠、登記の要否、法人格の有無、営利目的の存否、規模の大小等を問わないのみでなく、二以上の事業者が株主である会社を含むものである。従つて株式会社が事業者団体に該当する場合のあることは多言をまたないところであつて、なるほど、株式会社にあつては、会社それ自体の目的は本来商行為をなすことにあるのを原則とするから、株主たる事業者に対する共通の利益の増進を会社自体の目的とするということは殆んどあり得ないところであるが、二以上の事業者が株式会社制度を用いて結合し、その運営によつて共通の利益の増進をはかることもできるのであるから、株式会社であつて事業者団体法にいう事業者団体に当る場合のあることはなんら異とするに足りない。本件において、原告会社の株主中その九二パーセントにあたる五百十六名が砂糖小売業者であり、これらが原告会社によつて結合していることは前記の通りであつて、原告会社が単に株式会社であるというだけでは、事業者団体でないとする理由とならない。この会社が、現に砂糖卸売部門を設けて株主たる小売業者と取引しているのであるから、これら小売業者が原告会社の運営によつて共通の利益の増進を得ているかどうかが問題であつて、卸売部門の経営が会社設立当初の目的であることはなんら必要とするところでない。

三、原告らは、右砂糖卸売部門は、株主たる小売業者の利益のために設けたのではないと主張するけれども、右砂糖卸売業の経営が、株主たる小売業者の共通の利益の増進になるかどうかを決するには、特に共通の利益の増進を目的とするという別段の意図目的があることは必要でなく、その会社の事業経営が、現に共通の利益の増進に直接役立つていれば足りるものと解すべきである。本件の原告会社が、砂糖卸売業務を営むに至つた当面の目的が、砂糖の円滑な配給に奉仕するにあつて、公団から消費者への砂糖配給ルート中に一環を占め、もつて一般消費者の利益のためにしたものであつても、そのことと、それが同時に、株主たる小売業者のため共通の利益の増進になつているかどうかとは、関係のないことである。

四、よつて原告会社の砂糖卸売業の経営が、株主である小売業者の共通の利益の増進に役立つものであるかどうかについて考究する。砂糖卸売の経営によつて原告会社に利益が帰属し、これが各株主に配当(又は残余財産分配)の形式で分配せられ、その点において株主たる小売業者に利益の存し得ることは、小売業者の事業者としての利益と見るべきものでないことは、原告ら主張の通りであつて、小売業者が卸小売を兼営することによつて卸のマージンをも取得し得るということは、本件において共通の利益を構成するものではない。

しかしながら、原告会社が砂糖卸売業を開始するに至つた前記の事情によれば、原告会社の十五営業所の地区においては、当時卸商の登録にあたつて、他に候補に立つものがなかつたのであるから、原告会社が登録を受けなければ、その地区に属する小売業者は、地区内に卸商を持つことができず、他の遠隔の地区にできる卸商と取引するの外なかつたものと解すべきであつて、卸売価格が卸商の店先渡価格であつたこと、その他取引の相手方が遠隔にあると身近かにあるとにより、有形無形の便益の差の存することの否定し難いことを考慮すれば、株主たる小売業者が、原告会社の十五営業所の地区に、それぞれ砂糖卸商を有することは、これを有しないことに比して、取引上利益があるものと解すべきことはもちろんである。しかも、この卸売業を営む原告会社は、株主中九二パーセントが小売業者であり、その営業所は前記協同組合の各支部の店舗を兼ね、各営業所主任は組合支部長をもつて充てていることからすれば、事業経営上互いに密接不可分の関係があり(原告らは、かかる業態は会社設立直後、さし当り、経営上やむを得ずとつたものに過ぎないと主張するが、この事実自体のもつ意義は否定し得ない)、仮に、各小売業者が、その各地区内において原告会社以外に他の卸商を持ち得たとしても、かかる場合に比して取引の交渉、商品の授受、サービスの寄与その他卸商と小売商との間の取引関係から生ずる一切の問題について有利であることは見易い道理である。言いかえれば、小売業者が、かかる自己と密接不可分の関係にある卸売業者を有することは、そのような卸売業者を有しない小売業者に比して、取引上有利な地位を占めることは明らかである。原告らは、砂糖は配給統制であるから、何人が卸売業者であろうと、小売業者にとつては同じであり、価格も統制されているから、その面においても同様であると主張するけれども、配給及び価格の統制下においても、統制に属しない面において、サービスその他の上に競争の余地あることは否定し得ないところであり、ことに最高価格を公定する方式による価格統制においては、価格競争も全く不可能でないことは自明の理である。されば、砂糖の卸売業が統制に服するとの一事によつて、直ちに小売業者に取引上格別の利益を生じまいと断じ去ることはできない。また砂糖の卸売業と小売業とが、それぞれ別個の業種であるからといつて、この、卸小売が互いに取引し合う点において小売業者の利益が成立するということを否定しなければならないことはない。しかしてかかる取引上有利な地位を得ることが、原告会社と取引する株主たる小売業者にとつて、事業者としての共通の利益の増進に資するものであることは、おのずから明らかである。

五、原告らは、原告会社と取引する株主たる小売業者の数は、審決において確定していないのみでなく、審判開始決定書の記載によれば、株主たる小売業者の一部たる三〇パーセントにすぎないと主張するが、事業者団体の要件である共通の利益は、当該事業者団体の構成員全員について共通である必要はない。このことは、事業者団体の構成員がすべて事業者である必要がないことからも、うかがい得るところであり、結局構成員たる二以上の事業者につき共通であれば、足りるものと解すべきである。もつとも、事業者団体が事業者団体法によつて規整されるという趣旨から考えれば、利益を共通にする事業者が、団体の運営を左右するに足りない程度に無力であつて、そのために団体の運営上この共通の利益がかえりみられず、結局それが団体の目的とはいい得ない場合は問題外であるとしても、諸般の情況から見て、その共通利益の増進が、団体の目的として容易に変更廃止されない程度に安定し、現に団体の運営によつて、その一部の構成事業者の共通の利益が増進され、これが他の構成事業者によつて、抑制されるおそれのないところでは、一部少数の事業者の共通の利益の増進であつても、それが団体の目的となつていると解して差支えない。本件において原告会社の十五営業所と取引する株主たる小売業者の数が、審決で確定されていないことは原告ら主張の通りであるが、前記のような、原告会社の設立の経過、砂糖卸売部門開設の経緯、株主及び役員等の構成、営業の態様等の事情を考え合せると、右砂糖卸売の業務は、原告会社の設立とほとんど同時に開始され、その目的事業の重要部分であつて、原告会社は、現に株主たる小売業者の一部と取引し、その共通の利益の増進に役立つており、現に取引をしていない他の株主たる小売業者は、何時でも原告会社と取引し得る関係にあり、また他の株主によつて右の共通の利益の増進が妨げられるおそれはないと解せられるから、たまたま取引の相手方たる株主が少数であつても、原告会社の目的にその構成事業者の共通の利益の増進を含むことを否定することはできない。

六、以上のように見てくると、原告会社が、二以上の事業者の結合体で、事業者としての共通の利益の増進を目的に含む団体であることは明らかであつて、このことは、被告が審決において認定し、本訴において原告らの争わない前記の諸事実から、経験則によつて当然に導き出されるところであり、理性ある人が合理的に考えて結局到達するところのもので、その間に論理の飛躍があるとはいえない。原告らの引用にかかる参考人橋真乃夫、高津久男、宮原進、出原保正、石田庄吉の審判手続における陳述は、右結論を左右するものではない。従つて、被告が審決において、原告会社を事業者団体法にいう事業者団体であると認定したのは、結局これを立証する実質的証拠があるものというべきであり、また、被告がこの点に関する事業者団体法の解釈適用を誤つたと認めることはできない。原告らの主張は失当である。

第二本件においては排除措置の必要がないとの主張について。

一、国家的に全く統制されたいわゆる統制経済は、その本質からいつて、本来、公正自由な競争を維持促進しようとする私的独占禁止法、及び同法の補充立法である事業者団体法と相親しまないものであることは、いちおうこれを肯定しなければならない。しかしながら、今日わが国に行われるいわゆる統制経済は、本来自由競争の原則に立つ事業活動に対し、必要部面に一時国家的統制を加えることによつて成立しているのであつて、配給及び価格を統制する臨時物資需給調整法及び物価統制令等の統制法規にしても、いずれも、臨時の必要に基き制定され、情況に応じて改廃されていることは、今日見る通りである。しかもこの統制は、生産から消費までの一切の段階にわたつて、これに関与する一切の人の一切の行為を拘束するものでないことはもちろんであつて、統制に服するからといつて、その取引の部面においては、常に全然競争が成立しないと解することは誤りである。本件のような砂糖の配給部面においても、卸売業者は卸売業者間において、また小売業者は小売業者間において、常にその国家的統制に反しない限り、それぞれ自由競争の関係に立つことは、需要者からの投票によつて、資格を獲得するという登録形式からもうかがい得るところである。従つて原告会社の本件行為が、統制経済下の行為であるとの一事によつて、事業者団体法の適用を免れ得ないことはもちろんである。これを形式的に見ても、私的独占禁止法ないし事業者団体法の適用外の行為若しくは団体については、それぞれの法律において除外例としてこれを明らかにしているのに、本件のような臨時物資需給調整法、砂糖需給調整規則に基く行為が、法律上除外されていないところからしても、このことは明らかである。

二、更に原告らは、原告会社の行為が、砂糖配給関係においてつとめている役割は、なんら公益に反せず、公共の福祉に害あるものではないから、この意味からいつても、法の発動を見るべきものではないと主張している。しかしながら、私的独占禁止法ないし事業者団体法は、それ自体公共の福祉に奉仕するために、必要な拘束を加えようとするものであるから、ある行為が、これらの法律に違反するものと認められる以上、それ自体公共の福祉に害ある性格をもつものであり、かかるものとして法的制約を受けるものであることは多言をまたない。また、本件原告会社の行為が、公共の利益に害なく、却つてこれに奉仕するものであるとの所論は、たやすく賛成し難いところである。すでに前記のように、原告会社の行為によつて多数小売業者が、他の小売業者に比して取引上有利の地位を占めるものである以上、これらの者が砂糖小売業という一定の取引分野において、競争上優越の地位を獲得し、ひいて公正自由な競争を妨げ、その結果消費者一般の利益をも害するに至るおそれのあることは、当然に予測されるところであるから、かかる地位にあること自体が公益に反するものというべく、現在直ちに消費者に格別不利益の見るべきものがないとのことによつて、これを正当視し得ないことはおのずから明らかである。従つて被告が、原告会社の本件行為について、事業者団体法を発動したことはなんら違法ではない。

第三原告会社以外の原告らに対し、審判を開始し審決をしたのは違法であるとの主張について。

一、被告が、原告会社をもつて事業者団体法にいう事業者団体としながら、原告会社以外の原告らに対しても審判開始決定をし、本件審決をしたことは、原告ら主張の通りである。

二、(一)思うに私的独占禁止法は、事業者の私的独占、不当な取引制限及び不公正な競争方法等を禁止して、公正自由な競争を維持促進することを主眼とするものであつて、不当な取引制限は、しばしば事業者が共同して、対価の決定、生産の制限、販路の統制等を行うことにより起されるものであるから、同法第四条において、特に事業者のこれらの共同行為を禁止しているのである。これに対し、事業者団体法は、私的独占禁止法の補充立法としての立場から、事業者の前記のような共同行為が、しばしば事業者団体という形を通し、その名においてなされ、若しくはその介在によつて行われるという実情にかんがみ、この事業者の結合体をとらえて、その正当の活動範囲を定め、私的独占禁止法の目的とする公正自由な競争の実現をはばむおそれのある行為を防止しようとするものである。従つて私的独占禁止法にあつては、その規整の対象は、個々の事業者であるが、事業者団体法においては、事業者団体そのものであることはおのずから明らかであつて、このことは、それぞれの法律の明文によつても疑いの余地がない。しかして事業者団体法にいう事業者団体とは、すでに述べたように、事業者としての共通の利益を増進することを目的に含む、二以上の事業者の結合体を指すのであつて、その実体は、どこまでも事業者の「結合体」そのものである。決して被告のいうように「結合せる」事業者を意味するものではない。けだし、もし結合せる事業者の行為を規整するのが事業者団体法の趣旨であるとするならば、唯に同法第二条の文理に反するばかりでなく、少くとも結合せる個々の事業者の行為に関する限り、同法の禁止規定の大部分は、事業者の結合や共同行為を禁止する私的独占禁止法の規定と全く重複することとなり、補充立法としての意義を失うに至るからである。

(二)(1) 或いは、事業者団体法第五条第一項第二号をもつて、私的独占禁止法第四条の禁止行為を、各事業者が事業者団体という形で行うことを禁止したものであると解し、これを論拠として、事業者団体とは結合せる事業者の意味に外ならぬとする説があるが、右第五条第一項第二号を、そのように解さなければならぬ理由はない。同号は、かかる団体内部における事業者の行為を問題としたものでなく、事業者団体が自ら当事者として、他の団体又は事業者と契約や協定を結ぶことを禁止したものであつて、これは同様の規定である同条第一項第三号と比較しても、うかがい得られるところであり、且つ、事業者団体が、自ら内部的に、私的独占禁止法の禁止している行為を、あえて行うような場合は、別に同条第一項各号にそれぞれの規定がある。従つてこれを論拠とするのは誤りであるといわなければならない。

(2) また、事業者団体法第四条第二項において、公正取引委員会が認可して事業者団体の許容活動を定める場合に、その行為が私的独占禁止法に違反するものでないことを要件としている点を論拠として、もし、団体が事業者と全く別なものであるとすれば、営業行為その他法定の行為を本来営み得ない団体が、私的独占禁止法に違反するということはあり得ないから、本条のような規定のある筈がなく、結局本条の存在する意義からいつても、事業者団体とは、結合せる事業者を意味する、と解する説がある。しかし同条は、その立法技術上の良否は別として、事業者団体法が私的独占禁止法の補充立法たる性格から考え、後者の禁ずるところを、事業者団体という形ですることを許さない旨を、宣言したに止まるものと解すべきであつて、この一条のあることによつて、事業者団体即結合せる事業者と解さなければならぬものではない。

(三)しからば、何をもつて事業者の結合体とするか。事業者団体には、法第二条の挙げるように、結合の種類、形態、強弱に従つて、各種の段階が存するのであるが、先ず、(イ)それが法人又は人格なき社団財団であれば、各個の構成事業者の存在をはなれた別個独立の社会的存在を有することは明らかであるから、その当該法人その他の社団財団そのものをもつて結合体となし得ることは論をまたない。また(ロ)かかるものでなくても、一定の名称を有しまた代表者の定めがある、多かれ少かれ構成員の存在とは別個の存在を識別し得る場合は、それをもつて結合体とするに支障はない。最後に、(ハ)以上のいずれにも属しない結合体(単なる契約関係の如き)にあつては、結合せる構成事業者の全員を全体として、事業者の結合体とするのである。しかしながら、この形態においても、法の対象とするものは、あくまで事業者の結合体であつて、個々の事業者ではなく、個々の事業者は、結合体の構成員たる限りにおいてのみ、その意義を有するに過ぎないものである。従つて、この形態の結合体をもつて、事業者団体即結合せる事業者となすことの誤りであるはもちろん、これをもつて、すべての事業者団体に通じて妥当する根拠とし、事業者団体即結合せる事業者と解することのできないのは当然である。

三、このように、事業者団体法の対象が、事業者団体すなわち事業者の結合体である以上、審判手続において、同法違反の故をもつて公正取引委員会の審判に付せられるものが、事業者団体すなわち事業者の結合体であるべきことは、当然の結論である。事業者団体法が、その第八条において、公正取引委員会は、事業者団体に対し、排除措置を命じ得ることを規定し、且つこれについて、同法第九条によつて私的独占禁止法を準用し、その準用法条においては、審判に付せらるべき者は「事業者」とされており、この準用にあたつて、「事業者」とあるのを「事業者団体」と読み替えているのは、これを明確にしたものである。公正取引委員会としては、私的独占禁止法における審判手続において、事業者に対し、違反行為の差止その他の排除措置を命ずべきであると同様、事業者団体法における審判手続においては、事業団体そのものに対して、必要な排除措置を命ずべきものであつて、且つそれをもつて足りるものと解さなければならない。事業者団体に対して一定の排除措置を命ずれば、これが団体そのものを拘束するのはもちろんであるが、その半面、構成事業者は、これによつておのずから反射的効果を受けることは、団体の構成分子であることの性質上、当然であつて、もし団体に命ぜられた措置の実現を、構成事業者が妨げる場合は、別に罰則の定めるところによつて、責任を負うべきものである。しかのみならず、審判手続において事業者団体の外に、その構成事業者をも当事者として、これに排除措置を命じ得ることは、なんら法律の規定の存しないところであつて、事業者団体についての上述の解釈からすれば、むしろ、かかる構成事業者は、当然には、審判手続における当事者となり得ないものであると共に、公正取引委員会はこの者に対しては、排除措置を命じ得ないものと解するのを相当とする。この理は、その構成事業者が、団体の役員であること、もしくは違反行為に直接責任があることによつて、結論を異にするものではなく、単に、その必要があるとの一事によつては、法律により与えられた権限を越えることを許されるものではない。もし審決の結果に関係のある者について、特にその必要があるならば、事業者団体法の準用する私的独占禁止法第五十九条の規定に従い、その第三者を審判手続に参加させれば足りるのである。この参加の規定のあることによつて、事業者団体以外の者に対して、当初から当然に審判を開始し得ると解することの失当であることは論をまたない。もつとも、事業者団体の構成事業者が、常にここにいう第三者であるとはいえないとしても、ある場合にはこれにあたる関係に立つことは否定し得ないところであつて、この場合にかかる構成事業者を加えなければ審決の実効を期し得ないとすれば、これを第三者として同条による措置をとればよいのである。あるいは、元来事業者団体の構成員は、団体の行為につき責任があるとの点から、違反行為に関与した構成員に対して、排除措置を命じ得るとする見解があるが、これは排除措置の問題と刑事責任との分化を認識しないものというべきで採用することを得ない。被告は、事業者団体の外、その構成分子をも当事者とすることができるとし、しかも理論上は、その構成員の全員を当事者として審判をなし得るものであるが、その一部を採り上げることも違法でなく、これをいかなる範囲に限定するかは、公正取引委員会が具体的事件毎に、その者が違反行為に関与した程度、又は当該団体における地位、及びその違反事実に対する排除措置等を考慮して、適当と認めるところに従つて、決定し得るものと主張するけれども、その誤りであることは、以上の説明からおのずから明らかである。

四、このように見てくると、本件においては、事業者団体たるべきものは原告会社のみであり、従つて審判手続において当事者たるべきものも、原告会社に限られるべきであることは明らかであり、その余の原告らは、株主であり且つ審決認定のような地位にある者であつても、その故をもつて、本件審判手続において、当事者とされる理由のないこともまた明らかである。

第四結論

一、以上の次第であるから、被告が本件において、原告会社以外の原告らに対して、審判を開始し審決をしたことは、事業者団体法及びその準用する私的独占禁止法に違反する。従つて本件審決中、原告会社以外の原告らに関する部分は、事業者団体法第九条私的独占法第八十二条第一項第二号によつて、これを取り消すべきものである。

二、しかして審決は、本件事業者団体としての原告会社の違反行為の排除のために、原告会社の外その余の原告らをも包含して審決主文のような措置を命じているのであるから、これを原告会社のみが被審人たるべきものとするにおいては、その排除の実効を期するためには、おのずから別個の構想を要することは当然であるから、原告会社のみに対する審決を、そのまま維持することは相当でない。結局、被告のした審決は、これを全体として考察すれば、事業者団体法の適用により排除措置を命ずるにあたつて、不当であるというに帰着するものであるから、事業者団体法第九条私的独占禁止法第八十二条第二項第八十三条に則り、更に原告会社のみを被審人として、その違反行為を排除するに適合する排除措置を命ずるように、審決を変更させるため、原告会社に対する部分につき、事件を、被告公正取引委員会に差し戻すこととする。

三、原告らが審決主文の違法を主張するところは、すでに原告会社以外のものについてはこれを取り消し、原告会社の部分についてはこれを差し戻すこととした本件にあつては、その前提が変つたのであるから、これ以上特に審究する必要のないことはもちろんであり、また、原告らの予備的主張については、仮に、かかる主張が許されるとしても、その事実関係に争ある以上、ここで直ちに審決取消の判決を受け得るわけのものでなく、あたらしい証拠の取調のため、被告公正取引委員会に差し戻されるべきものとなる外ないのであるから、右主張の許否につき、ここで特に審究する必要のないことは明らかである。

四、よつて、原告らのその余の主張に対する判断を省略し、原告らの本訴請求を右の限度で正当として認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長高等裁判所長官 小林俊三 判事 中島登喜治 判事 藤江忠二郎 判事 猪俣幸一 判事 浅沼武)

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